AFTER STORY
The Case of Mia
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The Case of Mia
ミアの勢力であるリュコスに、「家庭」という概念は無い。
忍の一族であるリュコスの社会は、一つの組織として成り立っている。
すべての民はリュコスのために働き、その命の価値はリュコスへの貢献度で決まる。
「ただいま、お姉ちゃん」
「……」
ミアが笑顔で姉と呼んだ車椅子の少女は、ゆっくりと顔を上げて微笑む。
「今日は街に行ってきてね、古い畑が残ってたから……これ、採ってきたんだ。好きだったでしょ?」
「……!」
ミアの手には、たくさんの小さな果物があった。
配給食ばかりのリュコスでは、めったに食べる機会のない甘味。
畑を漁ったときに付いたのだろうか。木の葉を頭に付けたまま、にこにこと笑うミアを見て、車椅子の「姉」はまた、クスクスと静かに笑った。
数年前、任務中の事故により、声と運動機能を失った「姉」は、本来であればリュコスにとって価値のない、淘汰されるべき命だ。
ミアは魔女として、その莫大なリュコスへの貢献度と引き換えに、「姉」と慕う少女の生命の保護と、「家庭」の形成を許されていた。
「今日はね、ついに中心部を取り返したんだ。明日は、生きてる治療施設を探しに行くよ」
嬉しそうに話し続けるミアとは対象的に、「治療」と聞いた姉の表情が曇る。
「魔石もいくつか隠してあるんだ。そしたらお姉ちゃんを連れて行くから……そしたら……」
「……」
リュコスにとって、「家庭」を持つことは規律を大きく逸脱する行為だ。
魔女の貢献度がいかに莫大といえど、贅沢な暮らしは許されない。
あばら家の隙間から、まだ冷たさを残した春の夜風が入る。
「……もし身体が治ったら……元気になったらさ……一緒に、こんな国……」
魔石の隠匿。組織からの離反計画。上層部が気づいていないわけがない。
血縁の無い、形式だけの「姉」である私のために、ミアはどれほどの罪を重ねてしまうのだろうか。
そんな姉の気持ちを察しながらも、ミアは止まらないだろう。
リュコスに、人類に、魔女であるミアを拘束する手段はないのだ。
何を犠牲にしたって構わない。必ず姉を救い出す。平穏な暮らしを手に入れる。
ミアの瞳には、純粋な願いと決意が込められていた。
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溢れんばかりの